画師日鑑

お絵かきを生活の糧としている人の思考拠点。

カテゴリ: 民俗的な話

下総国総鎮守の葛飾八幡宮三十三周年式年大祭で、33年に一度行われる大規模な神輿渡御を見たあと(次は2050年)、葛飾八幡宮神楽を見てきました。

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ベッドタウンとして変容した街の交差点を通行止めにして神輿や馬を通す光景には、小気味よさを覚えます。しかし同時に半被姿の氏子衆にくっついて歩くしかない自分を含めた新住民には、故郷を捨てた、或いは生来故郷を持たない都市の人間の姿を見ざるを得ませんでした。しかしそのあたりがこの神社の祭りの面白さでもあるように思います。

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見掛けない種類なので聞いてみたら、馬は御殿場のカルチャーファームから来たおじいさんで、ロシアの労働馬との交配種だそう。「サラブレッドだとこういう馬装は合わないでしょ?」と調教師のおじさん。そうですね!
ハミは洋バミではなく洗いバミだそうですが、私が競馬場に居た頃はトウロクしか使わなかったため、今回初めて洗いバミというものを知りました。どこまでも深い馬文化。
ちなみに乗っているのは神社の巫女さん。

 
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神輿渡御のクライマックス。参道を延々行ったり来たりする。責任者がメガホンで「みんな気持ちよく(担ぎ手を)変わったげてー!」と叫ぶも、みなさん名残惜しいのかなかなか神輿から離れない。なんてったって次の祭りは2050年。
 

神輿渡御がクライマックスを迎えたあと、御霊返しに続いて葛飾八幡宮神楽(通称:八幡のお神楽)が三曲舞われました。昭和30年代に断絶し、現在保存会によって復元の過渡にある農漁村神楽です。八幡に伝わっていた神楽に漁業の要素が含まれていたというお話には驚きましたが、かつてこの神社の近くまで津波が来たという記録もありますし、思えば至極自然なことでした。

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「初おかめ」
神楽のはじまりを告げ、場を清めて祝福する。かわいい。

今年初めに見た船橋市飯山満(はさま)町大宮神社のお神楽は、地元の農家の方々によって受け継がれてきた神楽で、土地に根ざした人々(と神々)の間に流れるゆるさがなんとも魅力的なものでした。一方八幡のお神楽は失われた神楽の復元ということで囃子連や演者に気合いが入っているだけでなく、新規の面が多いことも手伝ってか、神楽の醍醐味であるゆるさのなかにかっちりとしたものがあって、そこにもの悲しさを感じたりもしました。

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「神明おどり」
田の神が耕した土地に狐が種を撒き、大黒さんが打ち出の小槌を振って豊作を祈願する。


とはいえそんなものは贅沢すぎる思いです。凶器になるので餅投げを飴や袋菓子で代用するという八幡の試みは、農村神楽の終焉を意味すると同時に、いかにも都市民による復元神楽らしくて愛らしいですし、芸術としての神楽の始まりともいえるのかも知れません。なによりも今回の舞を成功させた神楽連のみなさんの晴れやかな表情がとても印象的でした。

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「人波(にんば)おどり」
三兄弟が出てきて仕切ったりおどけたりしながら餅(今は菓子)を撒く。動く国芳や暁斎の浮世絵みたい。
 

あれこれ思いながら神楽の面白さに目覚め始めた本年、八幡のお神楽が全十二曲まで復元され、多くの人に囲まれる日を心の底から楽しみにしつつ、飯山満町のお神楽がいつまでも断絶せずに続くことを願うばかりです。

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ところで八幡のお神楽の解説を通して、実は葛飾八幡宮でも2月に湯立てが行われていることを知りました。来年行こう。


I visited Katsushika Hachiman-gu Shrine to see a festival which is held once in 33 years and also enjoyed a kagura, sacred music and dance.

The kagura which is played in this shrine was once extinct in 1950s, but now under revival by strive locals who have researched a little archive left in the shrine. The Kagura was originally played by farmers to play for good harvest, but since there are no more farms in the urbanized city, it was a little bit hard to find lively relationship among new players and gods as much as other Omiya shrine's kagura in Hasama town which is still kept and played by local farmers, but currently facing extinction because of the decrease of farm population.

However, I very much enjoyed the kagura in Hachiman-gu shrine and of course, I'm looking forward to see whole twelve dances in a row so bad while three of them are revived for now. At the same time, I'm irresistible to wish the kagura in Hasama town will be kept for long.

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今年の夏に埼玉県長瀞の宝登山神社奥宮を訪ねた際、奥宮のすぐ隣にある茶店に長年お勤めしているというおばあさんから、ある興味深いお話を伺いました。


曰く、「もう何十年も前のことになるけれども…以前白と黒のおおかみさまを見たことがありますよ。私はおおかみさまだと思っているんだけど」とのこと。

どうも物事を現実的に考えがちな私は、とっさに数十年前ならばもうニホンオオカミはいないであろうから、おばあさんが見たのは恐らく野良犬だろう、しかしだとしたら狂犬病が怖いな…などと無粋なことを考えました。しかしおばあさんにお礼を言って奥宮からロープウェイ山頂駅まで山を降りる間、おばあさんがお話し下さったその「おおかみさま」は、たとえオオカミが生きていた頃の目撃証言であろうと、今日の目撃談であろうと、実際のニホンオオカミというよりは、ニホンオオカミのようなもの、そのような姿をしたこの山の気とでも言うべきものなのかもしれないな…などと思い、自分の考えの狭さを反省したのでした。

…ともすると私はとても貴重な人とお話できたのかもしれない…! 


When I visited Hodosan Shrine in Saitama Prefecture and met an old lady who have served for a tea house in top of the mountain for decades, she told me she had encountered a pair of black and white wolves which are she believes "Ohkami-sama" (The Wolf Gods). I do believe they are still living in people's mind today. 

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